アリスズc


「かあさん…」

 リリューは、母を止めようとした。

 母のすることには間違いがあるとは思っていないが、乱暴な方向に話が進んでいる気がしたのだ。

「私は丸腰だからな。リリュー…抜け」

 しかし、聞いちゃいない。

 丸腰であることが、自慢でもあるかのように息子に言い放つ。

「桃も、刀を持って立て」

 地面から顔を上げたモモは、驚きで言葉も出せない状態だ。

 気持ちは、よく分かった。

 彼女は、刀を持つことを恐れたのだ。

 それは、ただの飾りではない。

 何かあったら、抜かねばならない。

 抜いたならば、斬らねばならない。

 ようやく、モモはその意味を刀を持つことで理解したのだ。

 母が、サダカネを初めてリリューに触れさせた時。

 母は、刀を抜いてその刃を彼の腕にあてたのだ。

『覚えておけ。これが…刀だ』

 母は正確に、リリューの腕の表面を刃で引いた。

 あっと思う間もなく、自分の腕に赤い筋が浮かんだ。

 怖いとか痛いではなくて、リリューは驚いた。

 こんなにも簡単に、斬れてしまうのか、と。

 そのおかげだろう。

 彼の、刀への憧れが消えた。

 サダカネを受け取る時も、自分なりの覚悟が出来た気がする。

 なのに。

 その刃を。

 モモに向けろ、と。

「いいから、その刀を抜いて、両手でちゃんと持ってみろ」

 母は、姪に穏やかに語りかける。

 おそるおそる。

 モモは、刀を持って立ち上がった。

 そして。

 戸惑いながらも──ゆっくりと抜いた。