アリスズc


「尾長鷲か…」

 カラディは空を見上げて呟いた。

「尾長鷲?」

 その名前が余りに奇妙で、桃は首を傾げる。

 ソーのことを言っているのだろうか。

「全然、尾は長くないですけど」

 空では、ソーが大きく円を描いていた。

「それは、あれがオスだからだよ。尾が長くて美しい色をしているのはメスでね。メスは、めったに森から出ない」

 動物の調査をしていると言ったことを裏付けるように、彼はなめらかに鷲の特徴について説明をする。

「オスは森を渡り歩き、美しい伴侶を探す旅をする。一生出会えないこともある。浪漫的だろう?」

 ああ。

 それが言いたかっただけね。

 桃は、ささっとよけた。

 カラディが、肩を抱こうとしたからだ。

 ついさっき、ソーに警告されたというのに、さっぱり懲りていない。

「箱入りにしてはカンがいいし、素早いなあ…エンチェルは」

 疑いに、ひとつひとつ言い訳しては、かえってボロが出るだけだ。

 桃は、ざくざくと歩き続けた。

「尾長鷲のメスは、あまりに羽根が美しいからね…気をつけないと、そこらの学のない農民でさえ捕まえて殺す。羽をむしって貴族に売るのさ」

 彼女のつれなさには、すっかり慣れてしまったようで、カラディはソーの仲間について語り出す。

 その言葉に。

 ほんのひとかけらの、悪意を感じた。

「あなたも、きっと殺すんでしょうね」

 その悪意を、桃は踏んだ。

 踏まれてなお、カラディは笑う。

「まさか…貴重なメスを1羽殺すより、人間の手で繁殖させて増やす方法を考えてるのさ」

 その笑顔が、さらなる悪意のかけらを落とす。

 そうか。

 繁殖させて増やして売ると、そちらの方が金になると──この男は言っているのだ。