アリスズc


 粘着カラディ。

 桃は、心の中で男にあだ名をつけた。

 この男は、何とか引きはがそうとしても、しつこくしつこく桃についてきたのだ。

 父は、領主だ。

 前に話をした時、領地である町によく顔を出していると言っていたので、多くの人が父の顔を知っているだろう。

 この男が、旅の途中で父を見たり、もしくは珍しい何かを持って父を訪問したことがあってもおかしくはないだろう。

 父は、桃と親子関係であることを、誰にでも話していいと言った。

 しかし、うさんくさい人間に、わざわざ話す必要はない。

 それ以前に、いまの桃は、カラディにとって──エンチェルなのだ。

 何だろう。

 まだ、ひっかかる。

 基本の疑いの他に、何か気づかなければならないことがあるはず。

 その気持ち悪さと、カラディそのものの粘着っぷりの気持ち悪さに、桃はすっかり疲れてしまった。

 大きなマントのおかげで、まだ腰の日本刀は見られていないが、このまま一緒にいると気づかれるのも時間の問題だろう。

 珍しい刀だけに、またこの男の興味をひいて、話をふくらます口実を与えかねない。

「本当にエンチェルは、箱入りなんだな…誰か護衛についてきてもらうべきじゃないのか?」

 この男は、何かとなれなれしく触ろうとする。

 本人にとっては、気軽な肩をぽんと叩く仕草なのだろうが、警戒している相手に触れられるのは、桃にとっては気持ちのいいことではない。

 ああもう、どうしよう。

 本当に敵と確認できるまで冷徹に振舞うことが出来ず、彼女はどうしたらいいか分からなかった。

 その次の瞬間。

 風と──影が動いた。

 バサァッ!!!

 大きな大きな羽音がしたかと思うと。

「うわっぷ!」

 カラディは、大きく桃から飛びのいたのだ。

 急降下してきた鳥が、彼の鼻先を掠めたのである。

「ソーさん!」

 再び上空へと戻る鳥に、桃はつい嬉しくなって呼んでしまった。

 彼女を助けてくれたように思えたのだ。

「あ、ああ…なるほど…護衛はちゃんといるわけね」

 カラディは、あきれたように空を見上げたのだった。