アリスズc


「それで、殿下の許可が出たら、私が様子を見に行こうかと思っているの」

 報告のほかに、桃はハレにこのお願いをするつもりだった。

 出産について、独身の彼女にはよく分からないが、何なりと手伝うことも出来るだろう。

 伯父が、賢者の地位を使って何かをしようとしても、伯母は受け入れないだろう。

 だから彼も、職務を外れて飛んで行くこともしないし、誰か見知らぬ人間を送ろうなどとも思っていない。

 桃は、身内の代表として伯母の手伝いに行くのだ。

 手紙の中には、『助けてくれ』の言葉はない。

 母が読める日本語の方も、単なる報告に過ぎないらしい。

 そんなことを、言う人ではないのだ。

 伯母の性格を考えると、一応大事なことなので、報告だけはしておく、ということだろう。

 動けないと書いているのも、そのうち動けるようになったら帰ってくる、という意味に過ぎない。

 そんなことは、母も分かっている。

 分かっているが、気になるのが身内というものだ。

 特に母は、自分の出産の時に伯母にはとても世話になったらしく、何も出来ない自分がもどかしくてしょうがないようで。

 桃が、楽観的にそう考えを馳せていたら。

 リリューは。

 固まったままだった。

「リリュー…にい…さん?」

 まさか、硬直されるとは思っていなかったのだ。

 リリューは、二人の本当の子ではない。

 そこへ、突然二人の血を引く子が生まれたのである。

 その事実は、彼の心を著しく傷つけたりした──わけがない!

 そんなこと、桃だって分かる。

 あの伯父と伯母が、血のつながり云々で、今更リリューを分け隔てなどするはずがないのだ。

 そんなこと、桃よりも本人が一番よく分かっているはず。

「そう…か」

 ぽつりと、彼は言葉を落とした。

「そうか…私に、弟か妹が出来たのか…」

 リリューにとって必要だったのは──ゆっくりと、その喜びを噛みしめるための時間だけ。