アリスズc


「何しに来たの?」

 何度、会おうと根回ししても拒むため、テルは直接オリフレアの部屋を襲撃した。

 待っていたのは、手負いの獣のような女だった。

 既に、右手には髪が握られている。

 彼に向かって、魔法をぶっ放す気なのか。

 ああ、面倒臭い。

 テルは、深く息を吐いた。

『愛』なんてものを、ひどく勘違いしている。

 十分満足のいく、分かりやすい愛だけを、この女は『愛』と思っているのだろう。

 幼児の癇癪と、何ら変わりないのだ。

「昔…女が一人いた」

 テルは、彼女の態度を完全に無視して、勝手にソファに背中を投げ込んだ。

「王の妹という地位の、血筋だけは立派な女だった」

 大きく足を組む。

 ついでに、腕も組んだ。

 そして──オリフレアを見た。

「女には、好きな男がいた」

 ヤイクは、無駄なものまで色々と知っている。

 真実のかけらを拾い集めて、不完全ながらに絵を描くのだ。

 その絵を、テルは彼の言葉の中に垣間見た。

「その男は…イデアメリトスじゃない。だから、産まれる子は、祝福されないだろう。だから、子を作ろうとしなかった」

 オリフレアの表情が、こわばる。

 だが、テルは悲壮感を高めるために、こんな昔のことをほじくり返しているわけじゃない。

「矛盾してると思わないか? じゃあ何で…いま、お前は『イデアメリトス』なんだ?」

 そう。

 彼女は、イデアメリトスの正当な血筋と認定されたのだ。

「私が望んだからよ!」

「そうだ、お前が望んだからだ!」

 オリフレアが掘る穴に、テルは即座に彼女を突き落とした。
 
「お前は望んでイデアメリトスになった…誰がそれを叶えた!? 誰がお前をイデアメリトスにした!?」

 組んでいた腕を解き、彼女に指を突きつける。

 その気に押されるように、オリフレアの身が後方で傾いだ。

「は、母よ…だから何だっていうの!?」

 落ちた穴の中から──彼女は吠えた。