アリスズc


 都の隣領に入った時。

 テルは、一番最初に領主の屋敷へは向かわなかった。

 向かったのは。

「何しに来たの?」

 怪訝の塊の瞳で自分を見る──オリフレア。

 そう、彼女の屋敷に向かったのだ。

「都合があってな。しばらく滞在させてくれ」

 応接室の長椅子にどっかりと沈み込みながら、テルは大きな一息をついた。

 誕生日まで、残り三月程。

 それまで、毎日ハレと顔を突き合わせていてもいいが、復路の旅路でテルもいろいろ考えていたのだ。

 政治的に有能なヤイクと話し、武術的に有能なビッテと剣を交わしながらも、彼は先のことに考えを巡らせていた。

 テルは、太陽を継ぐつもりだ。

 父親が強硬に反対しない限り、そうなることに揺るぎはない。

 だが、太陽になるまでの間、おとなしく都にこもっているつもりはなかった。

 行くべきところが、いくつもある。

 それを、出来るだけ早く可能にするために、テルは自分のすべき仕事を、早回しで準備していくことにしたのだ。

「都合? 一体、何の都合があるっていうの?」

 まだ伸びきっていない自分の髪を、少し恨めしそうに見つめながら、オリフレアは言い放つ。

「俺の都合は…お前だ」

 そう。

 この我がままで、口も悪くて、態度も横柄な女に、テルは用があったのだ。

「は?」

 さすがのオリフレアも、彼の言葉は不意打ちだったのだろう。

 珍しい間抜け顔を、拝ませてくれる。

「都合というのは、お前だと言っている」

 テルの未来の計算の中に、彼女が入っている。

「俺は、都に戻ったらゆっくりした時間は取れない」

 だから。

 テルは、長椅子から身を起こし、上体を向かいのオリフレアの方へと少し傾がせながら、こう言ったのだ。

「だから…さっさと俺の子を宿せ」

 重そうな置物が飛んで来た。