アリスズc


 リリューは、母と父を見た。

 父は、穏やかに。

 母は、迷いなく。

 こちら側にいる自分が、戸惑っていることが、逆におかしく感じられるほどだった。

 サダカネ。

 母の愛刀。

 母が、祖国から持ち込んだ、たったひとつの武器。

 こちら側でつくられる日本刀とは、一目で違うと分かる逸品。

 鍛冶屋は、日本刀を作ってはいるが、決して満足はしない。

 サダカネがある限り、彼らに満足出来るはずがなかった。

 その刀を、母は事もなげに差し出す。

「かあさん…」

 重い。

 受け取るには、余りに重い刀。

 リリューは、手を出せないでいる。

「私は、定兼と旅をしてきた…お前も、一緒に旅をしてみろ」

 それは。

 その刃は、母の血と肉と同じもの。

 身のひとつ、魂のひとつ。

 それを、自分に渡そうとしている。

 愛を。

 愛を、疑ったことはない。

 海辺でみなし子になった自分だが、ただの一度も自分がこの家で厄介者だと思ったことはなかった。

 それは、本当はとても難しいことだ。

 そして。

 本当にとても幸福なこと。

 だから、彼はこうして立っていられるのだ。

 手を、伸ばす。

 両手でしっかりと、その重みを握りしめる。

 ずしりと、本当にサダカネは重く感じた。

 丸腰になった母は、同じように立ち続けている。

 それでも。

 とても、母に勝てる気はしなかった。