アリスズc


「ああ、あれでしょう」

 ヤイクの指差した先。

 金色の穀物畑の間に、ひとつだけ金褐色の穂が揺れている区画がある。

 その側の地面に、座り込んでいる男が二人。

「どうでしょう…報告した方がよろしいですかな」

「と、とりあえず、細かいことまで報告した方がいいと言われてますから…しときましょうか」

 そんな地面の側で、ひそひそと交わされる会話に、テルはふっと笑みを洩らした。

「精が出るな」

 声をかけると、二人は驚いて立ち上がった。

 一人は、三十歳くらいか。

 身なりが、それなりにしっかりしているところを見ると、この村の長の子か、はたまた下級役人か。

 もう一人は、四十歳ほど。

 いかにも、働き者の農夫と言った様子だった。

「あ、え、ええと…どちらさまでいらっしゃいますか?」

 若い方が、ヤイクを見ながら言った。

 彼の髪は、大分伸びてきていたのだ。

 いまさら切る気はないらしく、それなりに貴族っぽく見えるせいだろう。

 ヤイクは、都から視察に来たと、適当に答えている。

 一応、テルの旅の足取りは、公然の秘密であっても秘密には違いないのだ。

 若い方の男は、この村の長の三男であり、下級役人の肩書を得ていた。

 自分の人を見る目は、どうやら確かなようだ。

「いま、二期目なのですが…順調です。病気もありませんし」

 ただ。

 男は二人、顔を見合わせている。

 テルは、畑を見た。

 よく見ると。

 ところどころ、畑がハゲている。

 道に近いところから、ぽつぽつと隙間があいているのだ。

 病気だろうか。

 テルは、その隙間を覗き込んだ。

 ぽっこり地面に、穴が穿たれている。

 そう。

 まるで。

 引っこ抜かれたかのように。

「ただ…どうも、誰かが盗んでいるようなんです」

 怪訝な二人は、視線を合わせながら首を傾げたのだった。