アリスズc


「あなたの肌の色は…おかしくないわ」

 太陽の下で見たリリューを、彼女は思い出すように言う。

「太陽に愛されたって色を、してるでしょう?」

 そう語る、彼女の顔はぼんやりと白く見える。

 太陽に近ければ近いほど黒くなっていくというのならば、太陽から離れれば離れるほど白くなるのだろう。

 彼女は、きっと色が白いのだ。

 白い肌に、灰色の髪、ぽっちゃりとした身体。

 ゆっくりゆっくりと、彼の頭の中に『彼女』というものが組み上がっていく。

 自分の色を嫌い、そして自分が太陽に愛されていないと思っている。

 見ないままでは。

 彼女を見ないままでは、どんな言葉を弄したところで、両断されるだけだろう。

「……行こう」

 リリューは、立ち上がった。

 腰に、刀を戻す。

「え?」

 意味が分からず、驚いている彼女の手首を掴んで、『そこ』から立たせる。

 彼女をまぎれさせる、夜の居場所。

 色を隠すには、夜は最適だ。

 彼女は、だから夜に逃げる。

 歪んだ意味で、夜を愛する人。

 リリューは、そんな彼女を屋敷へと引っ張って行った。

 大きな声を出せば、すぐに何事かと、人が来てしまう領主の屋敷。

「ちょ、ちょっと」

 彼女は一生懸命声を抑えながら、リリューに引きずられて行った。

 屋敷の中には。

 灯りがある。

 燭台が燃えているのだ。

 その光の輪が、足元に迫った時。

 彼女は、強い力で足を止めた。

 振り返る。

 こわばった彼女がいた。

「大丈夫…」

 リリューが言うと。

「大丈夫じゃない…」

 彼女が──震えた。