アリスズc


「でも…そんな楽園に来て、思い知ったことがあるの」

 広げた手を自分の側へと戻し、彼女は指を組む。

「400年も太陽より遠いところで暮らしたせいで…私達は、太陽に嫌われたんだって」

 その指を、強く握り合わせた。

「私の髪の色…分かる?」

 この満月を持ってしても、はっきりと色は分からない。

 せいぜい、黒ではないと理解出来る程度。

「くすんだ灰色よ…艶もなーんにもない、みすぼらしい鼠と同じ色」

 400年前は、黒だったはずなのに。

 絶望に満ちた声だった。

 髪。

 この国の貴族や女性にとっては、とても大事なそれ。

「坊ちゃまは言ったわ…『何て醜い髪だ』って」

 前髪を引っ張り、彼女は残念な過去を思い出している。

「太っているのは…沢山食べないとすぐ死んじゃうって言われて育ったから。向こうにいる時は、もう少しやせてたのよ。でも、こっちでいつも通り食べてたら、こんなになっちゃって」

 何かを、一生懸命リリューに力説している。

 髪が灰色なのは、長い間雪の降る町にいたから。

 太っているのは、寒いところに住んでいたから。

 自分が醜いことには理由があって、それは私のせいじゃない。

 彼女は、そう言いたいのだろうか。

 リリューは、首を傾げた。

 彼女が、自分の容貌に不満を持っているのは分かる。

 自分の血筋や、生まれ故郷にも。

「それで…どうしたいんだ?」

 そこが、リリューには分からない。

 自分が、そんなことには興味がないと言うのは簡単だ。

 彼にとっては、本当にどうでもいいことで。

 だが、彼女にとっては大事なのだ。

 ならば、その大事を、彼女はどうしたいのか。

「綺麗って言われたい…いいえ、醜いなんて言われなければそれでいいのに」

 しょんぼりと、ため息をつく横顔。

「…何色でもいい」

 何とか言葉に乗せた一言は。

「嘘つき」

 一刀両断された。

 嘘じゃないのに。