アリスズc


「毎日毎日ずっと寒くて、女は出歩きたがらず、男はのんだくれが多い町なの」

 寒季地帯。

 そこが、彼女の生まれた町。

「駐留の兵士は、結構いるわ…でも、うちの町に送られてくるのは、何かやらかした鼻つまみ者ばっかり」

 言葉には、何もかもうんざりという響きが詰まっていた。

「逆かな。兵士が、問題なく生活できるようにするには、ある程度の規模の町が必要だった。だから、あの町を作ったの」

 町の成り立ちに関わるほど、さかのぼった話。

 彼女が言うのは、こうだ。

 その町で、兵士は見張るものがあった。

 だから、兵士の数はある程度必要だった。

 彼女たちの一族は、元々もう少し南に住んでいたが、国に金を積まれてから、その北限の町へ移住したという。

 400年ほど昔の話。

 見張るもの。

 それは──国の敵。

 極寒季地帯に、彼らは住んでいるという。

 魔法を使えるという少数民族だ。

 一生、北限から出てこないことを引き換えに、彼らは命を永らえたのだ。

 イデアメリトスは、口約束を信じたわけではない。

 だから、その町が出来た。

 彼らが、北限から出てこないようにするために。

「お金に目がくらんで、地獄へ行ったのよ…寒い寒い地獄の町。毎年、国から補助も来るし、適当な仕事でも暮らしていける」

 住民の男は、町から出ることは禁じられている。

 女が許されたのは、町内結婚が続いて、血が濃くなりすぎるのを防ぐためや、兵士と結ばれる者がいたため。

「だって、あんな寒いところ、誰だって逃げ出したいって思うわ。でも、逃げられたら町として成り立たなくなるから、お金としきたりで縛りつけられてるのよ」

 彼女の先生は、歴史に非常に精通した人だったようだ。

 勉学を通じて、自分の町の成り立ちを知り。

 そして。

 女だけは出られるという、そのしきたりの裏をくぐりぬけて、ここへ来たのだ。

「雪が降らないって…分かる?」

 彼女は、夜空に向かって両手を広げた。

 その瞳が。

 微笑みながら、リリューを見た。

「それだけで…楽園にいる気分よ」