アリスズc


「話したい…か?」

 彼女の中に、何かがわだかまっているのは分かる。

 それを、内側にとどめておくのを、とてもつらく思っているのも。

 刀を握る以外は、でくの棒程度の自分だが、彼女がしゃべりたいというのなら聞くことくらいは出来ると思った。

「わからない…どうしたらいいか、よくわからないの」

 もはや、この家の後継ぎという障害は取り除かれて、昨日の彼女はとても嬉しそうだった。

 なのに、今日の彼女は憂鬱そうだ。

「……」

 リリューの方が、どうしたらいいのか分からない。

 ただ、こうして彼女の前に突っ立っているのは、どうにも間抜けに思える。

 それに。

 見上げた態勢で、心を開いて話をする気にはなれないだろう。

 リリューは。

 腰の刀を鞘ごと抜くと、地面にすっと座り込んだ。

「え…ちょ…」

 驚く彼女を気にせずに、そのまま彼女を見つめる。

 腰を据えて話をする気が、こちらにはあると。

 そして。

 どれほどでも待つと。

 そういう気持ちが、伝わればいい。

 しばらく、彼女は困って戸惑っているようだった。

「………雪って…見たことある?」

 長い長い時間の後。

 ようやく、彼女はそう言った。

 雪。

 この国の、南限と北限の辺りで降る、凍った雨。

 知識では頭の中に入っているが、見たことは──

「ない」

 暑さは知っていても、ひどい寒さとは無縁の生活だった。

「私は、毎日毎日見てた。ここからずーっと北の限界線の町…それが、私の生まれた町なの」

 何を思い出したのだろう。

 彼女は、大きくぶるっと身を震わせた。