アリスズc


 空には。

 満月。

 今日は、最初から彼女はそこにいた。

 いつもの定位置に座って、歩いてくるリリューを見上げている。

「強いのね」

 一番最初に、彼女は言った。

「………」

 やはり、あれは気のせいではなかったのか。

 リリューは、モモの父との手合わせの時に感じた視線を、思い返したのだった。

 ということは。

 彼女は、剣を振るっている人間が、いまここにいる自分だと分かったのだ。

 確かに、あの背の高い男たちの中で、リリューだけが髪が短かったが。

「女の人も、剣を持ってるのね」

 答えない彼に、話が進んでいく。

 モモのことだろう。

「従妹だ」

「そう…強い血筋なんだ」

 その声には、羨望が混じっていた。

 いや、血は関係ない。

 そう言おうかどうか考えたが、リリューの唇など、彼女に追いつけるはずもなかった。

「私の血はね…お金と引き換えに、地獄を選んだ馬鹿な一族のものなの」

 彼女の深い深いため息が、こぼれ落ちる。

「勉強って…残酷よね」

 満月が、リリューに影を落とす。

 その影の中で、彼女はぼんやりと言った。

「しきたりだって言われていた本当の意味を、知ってしまえるんだもの」

「………」

 意味が、分からない。

 リリューは、彼女を見おろすだけだった。