アリスズc


 彼女にとって、自分と桃は特別な存在。

 それは、ハレもよく分かっていた。

 とても嬉しいことだ。

 だが。

 同時に、自分がテルに宣言したことが、本当に成しうるかどうかというと、彼にもよく分からない。

 コーは、まだ多くの人を知らない。

 深く付き合ったことがないという意味で、だ。

 都に戻れば、コーはきっと数多くの物を見て、多くの人と出会うだろう。

 トーとも、出会うことになる。

 そう。

 そのトーとの出会いは、きっと彼女の運命を大きく変えるのだ。

 それらのすべての出会いと、人との関わりの後。

 コーは、それでもなお自分を、特別だと思うだろうか。

 ハレには、分からなかった。

「コー…恋という言葉を知っているかい?」

 父は。

 母に、どう思いを告げたのだろう。

「恋?」

 彼女は、首を傾げた。

 歌の中に、『愛』はよく現れる。

 老若男女問わず、植物も動物も風も大地も太陽も月も。

 コーの歌に、愛は溢れている。

 だが。

 そこに、恋はなかった。

「ただ一人のことを思う時に…胸が苦しくなることだよ」

 こんなことをコーに言って、自分はどうしたいのだ。

 彼女の心が、よそを向いてしまう前に、自分につなぎとめておきたいのか。

 父と母よりも。

 この思いには、許されない壁がある。

 その壁を越えてなお、彼女は自分を選んでくれるだろうか。

「よく…わかんない」

 自分の胸に触れたコーが、頬をかすかに染めながら、首を傾げたのだった。