アリスズc


「明日…19日でしょ?」

 立ち上がって、ぱんぱんとお尻をはたきながら、彼女が言った。

 ちらりと月を見上げるのは、日付の確認か。

 この国の人間にとっては皮肉なことに、月が一番日付をよく知っているのだ。

「そうだな…」

 リリューも、月を見た。

「じゃあ、きっともう一晩お泊りになられるわね」

 その丁寧な言葉は、おそらくハレに向けられるもの。

 ハレは、月に対して何のタブーもないので、出かけることは可能だろう。

 しかし、この国の大部分の人たちへの配慮から、おそらく明日は出立しないと思われた。

 となると、一泊余計にこの屋敷で過ごすこととなるわけだ。

「じゃあ…また明日、って言っていいのかな?」

 ああ。

 彼女は、自分の部屋に戻るのだろう。

 明日の──夜の約束を、微かに匂わせるのだ。

 女性と、こういう約束を交わしたことはなかった。

 だから、リリューにしては珍しく、一瞬ためらってしまう。

 そう。

 心の中に、生まれたのだ。

 ためらいが。

「そっか…」

 そんな彼の沈黙を、彼女はどう受け取ったのか。

 少し、寂しそうにそう呟く。

 そして、行ってしまおうとする。

「明日の…」

 はっと、リリューは言葉を発していた。

 止まる背中。

「明日の…昼は?」

 まだ、太陽の日の下で、彼女を見たことがなかった。

 振り返る、やわらかそうなその身が言った。

「だめよ…だって、私は綺麗じゃないもの」