アリスズc


「私は…都の生まれじゃない」

 そう言うことで、うまく都の話を避けられると思った。

 彼女の好奇心は都というものに向いているから、その気持ちはしぼんでしまうだろうと。

「え? じゃあ、どこの生まれなの?」

 だが、問いは別の方向へと膨らんだ。

 ざあっと、耳の中で波音が聞こえた。

「ずっと東の…海辺の町だ」

 都の人間と、肌の色が違うのは、そのせい。

『それは、お前の生まれた町の、肌の色だ』

 よかったなと、父は言った。

 リリューが生まれた町を忘れないように、町もまたリリューを忘れない。

 その証拠が、この肌の色なのだと。

 都には、全国各地から人が集まるので、さまざまな肌の色の人間がいた。

 だから、こんな肌の色の人間がいても、誰も怪訝には思わない。

「どうして、都へ行こうと思ったの?」

 彼女は。

 もしかしたら、都へ行きたいのだろうか。

 華やかな話題が聞こえてくると、都へのあこがれが募って行きたくなるのだろうか。

「母が、私を助けてくれて…だから都へ行くことになった」

 本当に、自分は言葉が不得手なのだと思い知る。

 これまで、自分の過去を語ることなどなかった。

 彼の周囲にいる人たちは、みな知っていて、あえて昔話をする必要はなかったのだ。

「……そう、なの?」

 首を傾げた彼女を前に、リリューは困ってしまった。

 次に話を振ってもらわなければ、何を言ったらいいのか分からなかった。

「私は…町を飛び出して来たわ。女子学習塾の先生が、ここの奥様に紹介状を書いて下さったから」

 あの町を、出たかったの。

 言葉の端々に、家族への反発が見えた。

 だから、帰りたくない──あるいは、帰りづらい。

 ここを辞めるか悩んでいた時、そんなことも一緒に考えていたのだろう。

「でも、学習塾で習ったことは…ここでは余り役に立たないのが残念ね。まあ、贅沢は言えないのだけど」

 夜空に吸い込まれる、ため息。

 少し、遠い声だった。