アリスズc


「ありがとうございます…会わせてくれて」

 ゆっくりとした父との話は、また晩餐の後に時間を作ってくれることになり、桃はエインと共に応接室を出た。

 そして、彼に礼を伝えたのだ。

 エインの協力なしでは、きっと会うことは出来なかっただろう。

 桃という人間を認めて、夫人宅に到着するタイミングで、父に連絡を入れて呼び寄せてくれたのだ。

「もう邪魔したりはしない…いつでも屋敷に来るといい」

 複雑な表情は、いまもその顔からは消えていない。

 しかし、エインはそんな自分の心を、乗り越えることに決めたに違いない。

 これから、幾度となく父と会うことを許したのだから。

「そう…ですね。でも、人の口に戸は立てられませんから」

 一度や二度会って、さっと帰るくらいなら構わないだろうが、こんなテイタッドレックの血がはっきりと出ている自分が頻繁に出入りすれば、余計な噂が立ちそうだ。

 それが、真実に基づくものであったとしても、最終的には父やエインにあらぬ迷惑をかけるかもしれない。

「気にしなくていい…父が気にしないと言ったんだ。あれは…来て欲しいという意味だ」

 お父さん大好きっ子であるエインの、父の希望を優先した言葉。

「では、いつかそのうちに」

 桃の答えは、彼にはどうやら不快だったようだ。

 これほど譲歩しているというのに、まだ社交辞令で返すのか──そんな目。

「それより…」

 父とは会えた。

 素晴らしい、初対面を終えることが出来た。

 望めば会えるし、『おとうさま』と呼ぶことが出来る。

「それより…私は、貴方の姉さんになれるんでしょうか?」

 自分で言いながら、とても奇妙な言葉だった。

 父からすれば、養子とは言え、エインは息子。

 そして、自分は娘。

 世間からすれば、姉弟になる。

 弟がいると聞いて育っていた桃にとって、エインは本当に自分の弟だと思いたい。

 百歩ゆずって、せめて従姉として思われているのだろうか。

 そう、素朴な疑問で考えてしまったのだ。

「………」

 それは。

 エインにとっては、難しい質問だったようで。

 彼は、とても真剣に考え込んでしまったのだった。