アリスズc


「都…か」

 エインは、考え込む声でそれを呟いた。

 そんな彼の元に、使用人が近づいてくる。

 そして。

 何かをエインに耳打ちした。

 表情が変わったのを、桃は見逃さなかった。

「分かった…」

 それだけ答えると、彼女の方をまっすぐに見る。

「…場所を変えよう」

 エインは、建物に向かって歩き出した。

 何だろう。

 違和感を隠せないまま、桃はついていくしか出来ない。

 向かったのは、応接室。

 もう、ハレと夫人の話は終わったのだろうか。

 エインが、ノッカーを鳴らすと。

「どうぞ」

 夫人の声が、応えた。

 桃は、その瞬間ほっとしたのだ。

 ようやく、彼女は落ち着いて夫人に会えるのか。

 エインによって開けられた扉の向こう。

 イエンタラスー夫人は、ソファに腰掛けたまま穏やかにこちらを見ていた。

 桃が、目を細めた──次の瞬間。

 身体が。

 凍りついた。

 そんな夫人の後方に。

 立っている男が、いたのだ。

 中年の男。

 その瞳が、迷うことなく自分に向けられている。

 あ、あ。

 桃は、頭が真っ白になって、何の言葉も浮かべることが出来なかった。

 とても背が高く、手足が長い。

 しかし、ひょろひょろとした印象がないのは、鍛え上げられた身体が、その上品な衣装の下におさまっているから。

 腰にさがるのは──日本、刀。