アリスズc


「……!」

「……!」

 桃とコーは、お互い驚きに目を見開きながら、見つめ合った。

 口の中に、たったひとかけらの太陽の実を入れた瞬間のことだ。

 その甘く柔らかで、身体中を支配するような幸せの味に、女二人が同じ衝撃を受けた瞬間だった。

 コーは、ただただ足をジタバタとして、その味を言葉にできないもどかしさをあらわしている。

 桃は。

 ぎゅーっと、口の中で委細もらさず味わうので精一杯。

 世界でも、本当に幸運な人々しか口に出来ない、太陽の実。

 この町の人々にとっては、二度目の幸運だ。

 子供たちは、指についた果汁さえ逃さないように、一生懸命なめ取っている。

 勿体無さ過ぎて、桃は飲み込めずに我慢していた。

 至福の味。

 太陽の実とは、よく言ったものだ。

 それは、太陽の味がするという意味ではない。

 現在の権力者である太陽が、自分の名をつけずにはいられないほど、他に変えがたい甘露、という意味だ。

 桃は、目を閉じた。

 五感のひとつをふさぐ方が、この口の中の芳香と甘さをより感じられる気がしたのだ。

「桃~」

 情けない声で呼ばれ、はっと目を開けると。

 コーが、しょんぼりした眉で、自分を見ていた。

「飲みこんじゃった…」

 その言葉が余りにおかしすぎて。

 桃まで、ごくんと口の中の実を、飲み込んでしまったのだった。

 あー。

 コーと同じ眉になってしまう。

「なめらかな、甘き蜜露…ですわね」

 早口のジリアンでさえ、うっとりと漏らす言葉は──本当にゆるやかだった。