アリスズc


「明日には…出る」

 テルが、出立のスケジュールを告げた。

 それに、エンチェルクは軽い頷きで答えた。

 彼女が、答える必要などない。

 テルが決め、ヤイクが異議を唱えなければ、すべては動き始めるのだ。

 だが、彼女はあえてそうしたかった。

 武の賢者が来たという。

 キクの夫だ。

 親しく付き合うことはなかったが、いつ見ても彼は賢者の風格というものとは違う気を纏っていた。

 そんな男が、太陽の兄の護送に来たということは、もはやテルに何の憂いもないということ。

 それだけは、間違いないとエンチェルクにも分かったのだ。

「都へ…」

 ビッテの声が、微かな高揚をはらんでいた。

 彼もまた、都が懐かしく思えているのだろう。

 エンチェルクも、違うとは言えなかった。

 もはや、彼女の故郷は都なのだ。

 ウメもいる。

 エンチェルクは、彼女に話したいことが沢山あった。

 おそらく、一晩では到底足りないだろう。

 それほど、たくさんのことをウメに語りたかった。

 自分をこの旅に出したのは、きっとこんな気持ちを抱かせたかったのだと、痛いほどいま分かる。

 知りたい。

 見たい。

 そして、自分の中で発酵してゆく思いを、誰かに語りたいのだ。

 ヤイクへの苦手意識も消えた。

 この国への愛も、強く自分の胸を捉えている。

 もっと見て、もっと知って、もっと血肉にしたい。

 ああ、ああ、ウメ。

 彼女の目と、ヤイクの目の向こうにあるのは、この国のより良い未来。

 それの一端を、ようやくエンチェルクも、この目に映せるようになったのだ。

 ウメは、穏やかに微笑みながら、都で待っていることだろう。

 きっと。

 すべて、お見通しなのだ。