アリスズc


 別々の部屋、別々の乳母、別々の派閥の子供たちの中で育つ。

 兄弟ゲンカなど、ありえなかった。

 同じ東翼に住みながらも、他人のような生活をしているのだから。

 それを、一番憂いているのは母だったのだろう。

 母は、夜に家族の時間を作ってくれた。

 貴族たちが、みな帰ってしまった後、テルとハレを連れ出して、父の部屋に連れて行ってくれたのだ。

 父母の膝を争って、初めてケンカをした。

 テルは力が強くて、泣かされたのはハレだったが。

 ああ、自分とテルは兄弟なんだと、その時初めて実感したのだ。

「お天道様に、顔向け出来ないことはしてはだめよ」

 ケンカそのものを、母は止めなかったが、いつもそんなのんびりとしたことを言っていた。

 ある日、そんな母のお腹が、ぴかぴかしていた。

 それを母に言うと、「赤ちゃんが出来たの」と教えてくれたのだ。

 妹か弟が生まれると、二人はとても喜んだ。

 でも。

 赤ん坊は、生まれてこなかった。

 ぴかぴかは、消えてしまったのだ。

 それどころか、母の命も道連れになるところだった。

 テルもハレも祈った。

 魔法の力は、父が使ってくれていたので、二人はただ祈るしか出来なかった。

 幸い、母は無事峠を越えた。

 そんな時、テルが言ったのだ。

「お前が、太陽になっていいよ」

 テルは、自分は太陽にならなくていいから、母を助けてくれと祈ったという。

 だから、その約束を自分は守ると言った。

 ハレは、驚いた。

 そんな祈り方など、思いつきもしなかったのだ。

 その時に、子供ながらに考えた。

 自分よりテルの方が、よい太陽となるだろうと。

 母の前では、恨みっこなしだと誓ったが、ハレは自分は太陽に相応しくないと考えるようになった。

 その考えは、深い闇に彼を沈めていったのだ。

 テルが太陽だとするなら、自分は暗い月だと。

 そんなハレをすくい上げたのは── 一人の白い楽士だった。