アリスズc


「これは、テルタリウスミシータ殿下」

 ヤイクは、馬鹿丁寧にテルに臣下の礼を取った。

 会う機会を見つけるのが難しいため、部屋に彼を呼んだのだ。

 なるほど。

 花食いと、揶揄られるわけだ。

 整った顔立ちに、高慢そうな鼻、自信に満ちた目。

 女が好きそうな、少々悪い男がそこにいた。

 だが、テルの知るウメやエンチェルクが、そんな男に食われるままだとは思わないが。

「面白い提案をしてくる男だと聞いて、な」

 探る視線を向けると、ヤイクはやや心外だという表情をして見せた。

「実利にかなった政治手法だと思いますよ」

 だが、その後は続けない。

 少々、意外だった。

 見た目からすれば、もう少し口も軽く、ぺらぺらとこれまでの功績を語り出すかと思ったのだが。

「しかし、私ではトウが立っていると思うのですが」

 代わりに。

 逆に、ヤイクは探る目をテルに向けてきた。

 トウ?

 まだ二十代の男が、自分を指してトウが立っているとはどういうことなのか。

「私を、同行の従者にと考えてらっしゃるんでしょう? 周囲のお若いお付きから選ばれるのが都合もよろしいでしょうに」

 なるほど。

 情報を手に入れたのか、彼なりの分析か。

 いずれにせよ、鋭い判断だ。

 それに──面白い。

 話をしていて、退屈をさせない男だし、もっと話したい気分にさせられる。

 絶妙な、毒の混じり加減だ。

 ハレが、推したがる理由が分かった。

「旅に誘ったら、卿は断るか?」

 笑いながら、テルは単刀直入に斬り込んでみる。

「そう正面から口説かれますと、私も迷いますな…ところで、殿下は女の従者は考えておいでですか?」

 花食いは──花の話題を振って来た。