アリスズc


 テルは、ヤイクの前で手紙の封を切った。

 まず、ハレのものを開く。

「ハレが、すごいものを拾ったらしいぞ」

 なかなか豪胆なことをしたものだと、テルはつい笑みを浮かべてしまった。

「いやな予感しかしませんね」

 その表情に、ヤイクは苦笑している。

「月の娘だそうだ」

 月の一族から、逃げているところを保護したという。

「それは…余計狙われる材料になりませんか?」

 彼の言い分は、もっともだ。

 だが。

「娘を差し出せば、あいつらが俺たちを襲わないでいてくれるのか?」

 手紙を封に戻しながら、テルが言うと。

「あぁ…それもそうですね」

 あっさりと、ヤイクは引きさがった。

「魔法を使う月の者が、奪い返しに来たのを撃退したそうだ…向こうも頑張っているようだな」

 魔法、という言葉に、彼の文官は首を振っている。

 もう二度と御免だ、というところか。

 次に、父の手紙を開いた。

「…叔母だ、そうだ」

「叔母、と言いますと…いやな心当たりが一つしかありませんが」

 ヤイクは、鋭く頭のいい男だ。

 テルが何を言わんとしているのか、大体分かっているのだろう。

「その嫌な心当たりの叔母だ…幽閉先にいたのは、狂った違う女だったらしい」

 昔々。

 テルが生まれる前。

 父の妹は、オリフレアの母を殺そうとした。

 その咎で、一生幽閉されることになっていたのだ。

 あの髪の長さは、伸ばし始めて2年くらいか。

 2年前、誰かが叔母と狂った女を入れ変えた。

 そう。

『誰か』がいる、ということだ。