アリスズc


「不機嫌なようだな」

 テルは、ヤイクを部屋へと招いていた。

 今日の彼は、とても忙しい状態で。

 エンチェルクと衝突はするわ、ウメの肖像画と出会うわ、テイタッドレック卿の子息と出会うわ。

 それらが、完全にテルの中で結ばれているわけではない。

 だが、いまのヤイクを形成する、何か大切なものであったことは間違いないのだ。

「大したことではありませんよ」

 テルがソファにかけた後、それでも彼は大きな息を吐き出しながら、向かいへと腰かけるのだ。

「テイタッドレック卿は…キクの弟子か?」

 正直。

 テルが、一番気にかかっているのは、そこだった。

 都から、刀が送られてきたという。

 それは。

 キクが、帯刀を許したということに他ならないからだ。

「でしょうね…詳しくは知りません」

 その点については、ヤイクはあっさりしたものだった。

 本当に詳しく知らないのだろう。

 では、何故。

 彼は、北の領主に食いついたのか。

「では、ウメと関係が…?」

 ヤイクと一番関わりの深い人間は、彼女しかいない。

 あっと。

 言葉にしながら、テルの頭の中でチカッと光がまたたく。

 いま、何かがつながりそうになったのだ。

 エインを見て、自分は何を思ったか。

 誰かに似ていると。

 誰に?

「そうか…モモか」

 背の高い、栗色の髪のウメの娘。

 母にまったく似ていない容姿。

 エインとモモが、よく似ている気がしたのだ。

「さあ…私は何も知りませんよ」

 だが。

 ヤイクは──大きな吐息を落としたのだった。