アリスズc


「ハレだろ」

 オリフレアの話に、長々と付き合う気のないテルは、さっさと言い放つことにした。

 次の太陽になる人間の名前、だ。

 テルは、何でも自分で出来るように手を出した。

 だが、その分ひとつひとつの濃度は下がる。

 ハレは、徹底的に学問や政治に集中していた。

 国を治めることを考えると、ハレの方が適任だろう。

 大体。

 生まれた順番で言えば、向こうの方が先なのだ。

 どちらも旅を成功させたなら、よほどのことがない限り兄が継ぐことになるだろう。

 それが、テルの見解だった。

「あらあら」

 オリフレアは、肩をそびやかす。

 その金褐色の瞳で、テルを見据えるのだ。

 見た目に反した、獣の目。

「昼間、ハレに聞いたら、『テルだろう』って言ってたわよ」

 変な兄弟ね。

 そんな彼女の言葉を、テルは不思議にも思わなかった。

 ハレは、自分の旅路に自信がないのだろう。

 テルの方が、生き延びる可能性が高いと思っているのだ。

 だが、リリューとモモがつけば、ハレが旅をやり遂げる確率は、格段に上がるだろう。

「何で、あなたたちは、どっちも『自分こそが太陽になる』って言わないの?」

 オリフレアは、それが不思議でたまらないようだ。

 テルには、そっちの方がおかしい話だった。

「世の中には、面白いことがいっぱいあるからな」

 剣術も、そのひとつ。

 いまはまだ、背が低く、腕も短く、鍛えられることには限りがある。

 早く、この髪の呪縛を解き放ち、思うまま剣を振るいたかった。

 リリューのように、強く、速く。

「ばっかみたい」

 オリフレアは、つまらなそうに扉に向かった。

「野望のない男なんて、お断りよ」

 ツン。

 勝手なことを言い放ち、彼女は部屋から出て行った。

 それ以前に。

 猛禽類の女なんか、お断りだ。

 それが、テルの本音だった。