店に入り明かりをつけて、店にあったタオルで髪を拭いた。
 店長は温かい缶コーヒーを買ってくれた。
 店のテーブルに向かい合って無言で缶コーヒーを飲んでいる時、店長は私の濡れた頭に手を伸ばし、でもその手は触れずに缶を握りしめ、独り言のように店長は言った。

「もっと早く、出会っていたらよかったのに」

 そんな台詞、聞きたくなかった。



 後日、お店の子達だけで店長の結婚祝いをやるからおいでと一緒にバイトをしていた子から誘われ、出席した。

 昼間のオープンカフェで祝福を受け、笑顔を振りまく奥さんはとてもきれいな人で店長も幸せそうだったけど私に気付くとぎこちない笑顔を浮かべたので、用事ができた、と嘘をついてその場をあとにした。

 辺りは何物をも包み隠されることなく白日の下に晒されている。

 眩しい太陽を仰ぎ、雨よ降れ、と私は念じた。


 雨よ降れ。
 もうざんざん降れ。


 バケツをひっくり返したような、ホースで水を撒くような雨であたり一面飲み込んで、惜しみなく涙を流せるようにしてくれ、と。


《おわり》