希は一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに笑顔になって俺の肩に頭を乗せ、こう言った。



「私ね…最近よく思うんだ。あの時、勇気出してかーくんに話しかけててよかったな〜って。」



「それって……」



「…うん、もう5年前になるけどね…あれから、全ては始まったんだもん。」



それは希が高2の時。



俺が顧問だった男子バスケ部のマネージャーをしていた希はあの時、俺のことを『不思議な人だ』と言った。



それからよく話しかけてくるようになった希に、最初はなんて物好きな奴なんだと思っていた。



あの時の俺は…
冷徹人間だったから─



それに、どんなに私生活が荒れてても、在学中の生徒には興味を持たなかった。



まぁ…その気持ちもいつの間にか消えて、希を意識し出してたんだけどな。



「考えもしなかったな。まさか自分が…生徒と結婚するなんて─」



「私も…恋には憧れてたし、いつかは誰かと…って思ってたけど、まさかそれが学校の先生だったとは、想像もつかなかったよ。」



希はそう言うと、俺の手に指を絡め、ギュッと握った。