「薫、おはよう」

玄関ホールに行くと、何やらぼやっと立っている薫がいた。

俺が階段から降りてきているのにも気づかず、ただぼーっと玄関ホールに飾られている団章を眺めているだけだった。

俺の挨拶で顔をこちらに向けると挨拶を返した。


「おはよう」

「…元気ないね」

「そうか?」

から笑いをしながらまた団章を眺めている。

黒の騎士団の団章。

何故それを見続けているのだろうか?

「そういや薫、休養とってたんじゃないの?なんで制服?」

「…じっとしていられなくてな。」

俺はそっかとしか答えられなかった。
それ以外の言葉が思いつかなかったから。

薫は再び団章を見る。

「さっきから可笑しいぜ?」

薫は、俺と向き合うとまたから笑いをする。

「なぁ、皇紀。俺は、何を信じたらいいのかわからなくなった。」

「…」

「俺は…どうしたいんだろう」

「なぁ、よくわかんねーけど…薫が今一番信じたいことを信じればいいんじゃない?」

「はは…そう、だよな…」

そう答えると薫は、両手を上げて体を伸ばす。

「皇紀、皆は何処にいる?」

「え?零と姉妹は任務で、水希は寝てる。清はさっき出てったよ。」

「…そっか。なんか悪かったな、ありがとう」

先ほどまでの暗い顔ではなく、何かを決めた表情に変わり、薫はいつものようににっこりと笑った。



「外の空気吸ってくる。」


なんだかその声をもう聞けないような気がした。

心がざわざわとざわめき、気づいたら薫の手首を掴んでいた。

「皇紀?なんだ?」

「あ…いや…なんでもない。気をつけて」

薫は俺の頭をごしごしと撫でたあと玄関ホールを出て行こうと歩き出した。


「子供扱いするなっ!」

薫は顔だけこちらに向けてニコリと笑った。そしてそのまま行ってしまった。

その時ぼそりと薫がつぶやくように言う。

「俺は、"みんな"のことは信じるよ。」

その言葉は誰に対しての言葉でもなかったためぽやぽやと消えていった。

「薫…?何ていったの?!薫!?」

だから俺はその言葉を拾おうと叫ぶが薫はすでに

いなくなっていた。


薫はその後戻ってくることはなかった。






「古都薫は道化と判明。指名手配とする」





そう告げる零の声は、冷たかった。