ソレが出社した途端、あの優しそうで柔和な空気を一変させるのだから。



仮面を纏わなければならない、真咲のストレス度合いが心配にもなる…――




「なぁ、今日こそ!」


「今日もムリ…、まだ1週間しか経ってない」


今日は取りいった会議もなく、比較的デスクワークが出来る日だというのに。



お得意先との商談を終えた俺が帰社すると、またしても絡んでくる暑い男がひとり。



「頼むっ!マジで家庭の味に飢えてるんだって」


「だから…」


「定食屋のメニューは全制覇した!」


「お姉さんに相手して貰えよ」


「今月ピンチなんだよ」


「知るか――」


ヤケに暑い男…、もとい日野の脳内には“諦める”という言葉は受け入れないらしい。



「川崎ー、同僚を見捨てんのか?」


「…都合良すぎ」


この粘りが営業成績に繋がるのだが、仕事外となれば相手をするのも疲れてしまう。