犬の顔に猿の体・悪臭
を放つボサボサの黒い
剛毛が全身を包む。

顔の中心にある、
大きな三つの眼球は、
赤く充血し獲物を
求め忙しく動く。

その下にある二つの鼻孔
がヒクヒク辺りの匂いを
嗅ぎ回り、やがて妖魔は
動きを止め血が滴る
大きな口元を歪め地面に、
飛び降り楓の周りを
四本の足で歩き出す。

「は…白蛇…」一太が
白蛇を呼んだその時、
体に鈍い振動を感じ
恐ろしい唸り声が
聞こえた。妖魔が虚口に
飛びつき中をうかがって
いる。楓の結界で姿は
見えないが、匂いは
隠せなかった。太い腕を
ねじ込んで見えない
獲物を捕まえようと
三本指を動かすが、
いたずらに敷き詰めた
枯れ葉を舞い上げる
だけだった。

一太は目覚め泣き出した
ニ太の体を後ろに庇い
少しでも妖魔の腕から
逃げようと虚の土を
掘り返しながら必死に
白蛇を呼んだ。子供達の
泣き声で獲物の存在を
確信した妖魔は、老木の
脆い木膚を引き裂き始める。

軋む楓の中で幼い子供に
出来ることは、泣き
叫ぶ事だけだった。