今夜は足の傷も痛まず
お腹もいっぱいな一太は、
先に眠ったニ太の横で目
を閉じウトウトしていた。

外は雲が月を覆い隠し
遠くで雷鳴が聞こえ始める、
どこかで降り始めたのか
雨の匂いもする。

突然犬のほえ声が聞こえる
どうやらあの黒い犬の
声らしい、何かに怯えて
いるのか甲高い
声が続いた。

そして恐ろしい悲鳴が
聞こえたと思ったら
パタリと声は消え
再び静寂が戻った。

驚きおそるおそる虚の上
を見れば、楓が枝に
立ち川原がある方を
凝視していた。

一太も身を乗り出しその
方向に目を向けると、
巨大な妖魔が野良犬
だった肉片を噛み引き
裂き食べていていた。

惨劇を見て恐怖にうっかり
声を上げた二太。

ゆっくり顔を上げ声の
主を探す三の眼がじっと
辺りの気配を伺う。

「一太なかへ…
白蛇を呼べ」

そう告げ楓は結界を強め
たが、獲物を見つけた
妖魔の動きは素早かった。

一瞬で社の壊れた屋根に
飛び移りあたりを伺う。

一太は白蛇を呼ぼうと
するが恐怖で声が
出せなかった。