子供は獣の身軽さで、
大楓の根元に近づき
用心深く辺りを見回し
人の気配が無いのを
確認してから、根元に
在る虚に体を
すべり込ませる。

社と老木には人目に付く
場所に針金で看板が
掛けてあった。それには
『道路拡張の為
撤去予定』の文字が
書かれていた。
狭い虚の中には子供と
よく似た小さな男の子
が一人膝を抱えるよう
な格好で眠っていた。

「二太…起きて食べ物
を探して来たよ」

子供は二太の側に
大事に抱えて来た僅かな
食料を置いた。バッタ
やカエル・食べられる
草は、近くで手に入った
が、空腹は満たされず
時折民家のゴミ箱を
あさる生活を送っていた。

「にいちゃ…
はいどうじょ」

二太は古く固い
パンを取り分け兄
に指さし出した。

「オレさ…先に食べて
来たからいらない。
二太全部食べなよ」

二太は首を大きく
左右に振り兄に僅かな
カケラを手渡し笑顔で言う。

「いたたきます」

最近はこの辺りでも
野良犬や野良猫が
増えた為、ゴミ箱を
戸外に置く家が減り
食料を得る為には、
町中まで出掛け
なければならなかった。