「ねぇ雫、私が気づいてないとでもおもってたわけ?」
(なんなのこの態度。あんたあたしに負けてんのよ)
「あんたが気づいてるとはね、誤算だったよ。」
「私も誤算だった。まさか酔ってる柊斗につけこむなんてね。」
「違う、峰内が先に誘ってきたのよ。」
(なによ、あんたなんて―)「おめでたい女ね。」
美波の声はいつもと全く同じトーンだ。余裕のある態度―これが気に入らないのよ―。
しかし雫も負けたままではない。
「あんたも喰えない女よ、美波。判ってたのなら早くかかってこいっての。」反撃開始だ。この場を楽しむような顔に変わった。
「お生憎。あんたが正々堂々としてないのにあたしが出向く必要ないから。」
美波の高慢さが面にでてきた。
「金持ちのお嬢様ってこれだから嫌なんだよね。自分がいつも一番って勘違いしてるし。」なかなかいい切り返しのはずだ。
「仕方ないよね、お金も美貌もおまけに頭もいいから勝手に一番になっちゃうだけなの。」なめやがって。「それと誤解しないで。」「なにをよ?」
「私とあんたは対等じゃない。あんたは私をぬくことはできないってことよ。」「なめんなよ、あたしは―」
雫が言い終わる前に美波はすっと立ち上がり、最高の笑顔で言った。
「勘違いな戦いを一人でどうぞ楽しんで。」そして扉へ向かう。立ち止まり、雫に一瞥くれた。
「じゃあね。」