「あのさ、美波。」柊斗の緊張はピークに達していた。普段と変わらない美波の余裕を持て余した声がそうさせた。
「なあに柊斗?柊斗がかけてくるなんて初デート以来だね。」語尾がはしゃいでいる。駄目だ、俺には言い出せない。
「いや、いつも電話かメールくれるからさ、どーしたのかなって思って。」
「ごめんね、携帯なくしてたの、ついさっき警察の人が届けてくれたんだ。話したいこととか沢山あったんだけど、今話せる?」
「そっか、でもごめん、今は厳しいかも。俺、夕食抜けてきたから今頃監督たちが探し回ってるはずだし。」
「そっか、続きはまた明日ね。」
「ごめんな。俺からかけておきながら。」
「いいの、気にしないで。大体のことは分かってるから。お休み。」
良かった。柊斗は胸を撫で下ろした。美波の性格的に俺が雫とキスしたって知ってたら必ず問い詰めるはず。でもなかった。バレてないんだ。なんか嫌な汗かきまくったのに円満だ。もっかい温泉行ってきて明日に備えるか。
そう思いながら柊斗は温泉へと向かった。