「おぅよ。もっとも、あっちの客かもしれんがな」

「そんなん、仕事場には来ないだろ? 単純に、腕が良いからじゃないのか?」

与一の言葉に、三郎太は、ずいっと顔を近づけた。

「腕が良いのも確かだけどな。あそこの店は、結構乱れてるぜ。仕事中でも、二人で奥に消えたら、怪しいと思う」

「店の奥? でも、奥は住まいだろ? 奥方もいるんじゃないのか?」

与一も、身を乗り出した。
さっきまでは、まるで話にならなかったが、思わぬところから核心に迫ったものだ。

三郎太は、ぐんと声を潜めた。

「あそこの奥方は、昼間はずっと出かけてるんだよ。うちのお嬢さんと友達でな、いつもうちの駕籠を使ってくださるから、どこに行ったか、まるわかりなんだ」