廊下を渡って、三郎太は駕籠付き場に面した、一つの小さな部屋に入った。

「なかなかだろう?」

与一に円座を勧め、自分も正面に座ると、三郎太は意味ありげに駕籠付き場を見て言った。

「うちは女の客が多いからな。担ぎ手も、それなりに見目良い奴にしてるのさ」

「なるほどな」

女性好みの綺麗な駕籠に、見目良い担ぎ手。
女性客がこぞって千秋屋を使うのも頷ける。

「そいで、どうしたぃ?」

先程の若者が運んできた茶とお菓子を受け取り、三郎太が与一に渡しながら聞いた。

「うん・・・・・・。あのさ、昨日茶屋で会ったとき、お嬢さんに贈る下駄を、わざわざ辰巳に作ってもらってたな。お前、辰巳のことは、前から知ってたのか?」

与一の問いに、三郎太は途端に赤くなって、頭を掻いた。