「あんたは、ここに勤めて長いのかい?」

三郎太がいつ改名したのかは知らないが、昔からいるのなら、三郎太という幼名も知っているはずだ。
ずっと小さいときから奉公にきていれば、幼名時代の三郎太を、知っているだろう。

が、男は首を振った。

「いいえ。私はまだ、二年ほどです」

二年前といえば、三郎太は二十二歳。
すでに幼名は、名乗っていないだろう。

「そうかい。じゃあわからねぇな。ここに昔っからいる男で、三郎太って昔は名乗ってたんだが」

「昔ながらの、お知り合いですか?」

与一をこの店の従業員の旧友と理解し、男は上がり口に円座を出して勧めた。

「奥にもまだおりますので、探してきます」

「ああ。与一って言ってもらえば、わかると思う」

男が頷き、中へと走っていく。