翌日、京処に入った辺りで行き会った女子(おなご)に聞くと、千秋屋はすぐにわかった。

立派な店構えに、少々気後れしながら中を覗くと、すぐに下働き風の若い男が飛んできた。

「いらっしゃいませ。駕籠の手配でしょうか」

与一を駕籠の手配をしに来た使いの者と思い、はきはきとした声で応対する男に、与一は店の中を見渡しながら尋ねた。

「いや、三郎太はいるかい?」

「三郎太・・・・・・で、ございますか?」

与一の問いに、男は怪訝な顔をする。

そういえば、このような大店で働いている三郎太は、それに相応しく名前を変えたかも知れない。
着ているものも、この目の前の男よりは良いものだったし、それなりの立場になっていれば、幼名を捨てるのが普通だ。