しかし、どうやって見も知らぬ奥方に近づこうかと考えていると、藍が与一を振り向いて言った。

「ね、昼間に下駄屋の横の茶屋で話してた町人はだぁれ?」

「ああ。村から売られてきたときに、一緒にいた唯一の男ですよ。奴は京処で奉公にやられたんですが、そこが千秋屋だったそうで」

「へぇ、大店ね。千秋屋といえば、評判のお嬢さんがいるところじゃない」

そういえば、三郎太もお嬢さんがどうのと言っていたな、と思い出した与一は、ふと良いことを思いついた。

「そうだ。三郎太は、辰巳の下駄をお嬢さんに贈ると言ってた。辰巳のこともよく知ってたし、何かわかるかも」

「千秋屋は女性に人気だから、奥方のことも、何かわかるかもしれないわね」

よしっと勢い良く立ち上がった与一だが、一瞬後には首を傾げた。

「あれ? 藍さん、そもそも依頼は、何でしたっけ?」

あ、と藍も首を傾げた。