「ああ。よっく考えてから決めな。この辰巳が、兄さんにぴったりな下駄を、作ってやるからよ」

「期待してるよ」

笑顔を返し、与一は店を出た。

そのまま少し歩き、小さな路地に入り、また通りに出ては路地に入る。
その都度いろいろな店に入り、いかにも冷やかしの客を装い、最後に前に入った飯屋の店先に腰を下ろした。

「稲荷と蕎麦定食を頼むよ」

店の坊主に告げ、受け取った茶を啜りながら、辺りを窺う。
怪しい気配はない。

張り詰めていた気をすっと抜き、しばらくぼぉっとしていた与一は、やがて運ばれてきた飯を受け取り、蕎麦に手を付けた。

半分ほど食べ終わったところで、背後にちょこんと、慣れた気配が座った。