「お客さん。着物はいつも、どういう色だい?」

「黒だね」

「若いのに、やっぱり渋いねぇ。じゃあ鼻緒は、うんと派手にしたほうが、お客さんの魅力も増すってなもんだよ」

やたらと与一を褒めながら、鼻緒を選ぶ辰巳の仕草を、与一はじっと観察した。

注意深く辰巳を観察した与一は、細心の注意を払って、店の中にも神経を尖らせた。
与一の研ぎ澄まされた感覚に引っかかったのは、辰巳のほかに、一つ、二つ。

与一は目を閉じ、ふっと息をついた。

「ちょっと考えるよ。とりあえず、台だけ作っておいてくれるかな」

言外に、また来るということを匂わす。
案の定辰巳は、笑顔で頷いた。