本心は今すぐ藍のところに逃げたいが、ふと思い直し、与一は辰巳に笑顔を向けた。

「よくわからねぇや。あんた、下駄造りといやぁ小物街の辰巳と言われた職人だろ。あんたから見て、俺に似合うものを選んでおくれよ」

与一の笑顔に破顔した辰巳は、彼の身体を舐めるように見た後、嬉しそうに笑って言った。

「そうさな。お客さんは細身だが、なかなか良い身体をしていなさるねぇ。程良く引き締まって、無駄な肉がない。着物も粋だし、お客さんなら、どんな下駄でも履きこなせるさね」

その気(け)のある者に‘良い身体だ’と言われることほど、気色の悪いことはないのだが、与一は気づかないふりをし、ただひたすら笑顔を保った。