途端に笑顔になって、藍は油断した与一を思い切り引っ張って、下駄屋に放り込んだ。

「安心したわーっ。じゃ、誑かされないよう気をつけて、頑張ってね」

「ちょっと・・・・・・」

あっという間に、こちらに背を向けて、少し遠くで鼻緒を選ぶ藍に、与一は思わず非難の声を上げそうになる。

「おや。お客さんは、新顔だね」

背後からの声に、我に返った与一は、ゆっくりと視線を、声のほうへ巡らした。
作業台の前に座ったまま、与一を見上げる職人---辰巳と目が合う。

辰巳は与一の顔をじっと見た後、僅かに口角を上げ、足元に視線を落とした。

「なかなか良い下駄を履いていなさる。お若いのに、渋い趣味だね」

辰巳はそう言いながら、与一の足を、自分の作業台に乗せるよう促す。