藍の言葉に、与一は驚いて彼女を見た。

「お嬢さん、下駄屋に行ったんですか? いつの間に?」

「稲荷寿司を買いに行く前にね。よいっちゃんが、何だか町人と親しげに喋ってるから、お邪魔かなぁと思って」

ここで藍は、何故か拗ねたように唇を尖らせた。

「で、時間潰しがてら辰巳に近づこうと思って、あそこに行ったの。でもあいつ、あたしが何か聞いても、下駄の修理に来た男の人の相手ばっかして、全然こっち、見もしなかったのよ」

「へぇ。お嬢さんを見もしないなんて、辰巳も勿体ないこと、しましたね」

何気なく言った与一に、藍は嬉しそうに、にっこりと笑いかけた。

「うふふっ。よいっちゃんがそう言ってくれるだけで嬉しいわぁ。仕方ない、よいっちゃんに免じて、辰巳の失礼な態度は許してやるわ」

「そんな良いこと、言いましたかね」

首を捻る与一に、にこにこと笑いながら、藍は立ち上がった。