「人気の駕籠屋だからな。忙しいんじゃないのか?」

「まぁな。でもそのおかげで、村のことも考える暇無く仕事に没頭できた。昔のことを思い返すことができるようになったのは、ほんと、最近だぜ」

茶坊主が運んできた茶を啜り、三郎太は感慨深げに目を細めた。

自分も、藍にしごかれているときは、思い出に浸る暇もなかったかもな、と思いながら、癖で背後の的の様子を探っていると、ふと三郎太が与一を見た。

「お前は、結局あの後、どこにやられたんだ?」

三郎太の問いに、与一はちょっと考えた。
まさか、殺し屋になったなどと、言えるわけがない。

「ああ、うん。お三津らぁと色町に連れて行かれたところで、たまたま出くわした人に引き取られたんだ」

嘘をつくのは苦手だ。
ばれると厄介なので、与一は事実を、当たり障り無く言った。