与一は己の足元に視線を落とした。

与一も藍も、草鞋ではなく、下駄を履いている。
草鞋のほうが動きやすいかもしれないが、下駄のほうが、武器としても使えるからだ。
慣れれば下駄でも、動きに不自由はしない。

もう少し、辰巳に近づく必要がある。

外から観察しただけでは、やはり限界がある。
下駄でも買いに行こうかと思っていると、不意に視線を感じた。

不自然でないように、ゆっくりと目線を上げる。
視線は背後---下駄屋のほうからだ。

与一は茶屋の奥に向かって、声をかけた。
そのまま、ちらりと下駄屋に目をやる。

下駄屋の店先に、一人の男が立っているのが目の端に見えた。
辰巳ではない。

与一は、今気づいたように、今度ははっきりと、下駄屋に目を向けた。

店先に立ってこちらを見ているのは、二十歳半ばの町人風の男だ。
明らかに与一を見ているが、敵意は微塵も感じない。

不思議に思い、与一も男をじっと見た。

どこかで見たような・・・・・・。

男が近づいてきた。
驚いたような顔で、真っ直ぐに与一の顔を覗き込み、やがて口を開いた。

「・・・・・・与一か・・・・・・?」

男が言った途端、目の前の男の顔に、幼い少年の顔がだぶった。