夢も見ずに、ひたすら眠りを貪っていた与一は、不意に漂ってきた良い匂いに、ぱちりと目を開けた。

その途端、でっかい漆黒の瞳が、視界に飛び込んできた。
反射的に飛び起きると同時に、後ろにのけ反る。

「やん、物騒ね。よいっちゃんたら」

与一のすぐ傍で正座した藍が、小首を傾げて微笑んでいる。
与一の手は、無意識に小太刀の柄を握っていた。

「驚かさないでください」

小太刀を脇に置き、与一は息をついた。