家に帰り着くと、藍は早速台所に立ち、朝餉を作り始めた。

「藍さん、眠いんじゃなかったんですか」

手伝おうにも、与一は元々料理などしたことがないので、手伝いようがない。
きょろきょろしていると、藍が釜を火にかけながら、与一に言った。

「後で寝るわ。ほら、よいっちゃんはご飯が出来るまで、寝てていいから」

さっさと二階に追いやられてしまう。

仕方なく、与一は素直に二階に上がり、布団を敷いて横になった。
一瞬で、深い眠りに落ちる。

与一や藍は、短い時間で深い睡眠をとる方法を心得ている。
一晩ぐらい寝なくても、平気といえば平気だが、僅かな隙が命取りになるこの稼業では、どんな短い時間でも、眠れる状態であれば、その時間内で一晩分にも相当する睡眠をとる必要があるのだ。