その日は一日、下駄屋をそれとなく見張っていたのだが、特に収穫無く終わった。

「あ~あ、苦手だわ~。的が隙だらけでそこにいるのに、周りを探るだけなんて」

夜が白み始めた通りを歩きながら、藍が言う。

「おまけに、こんな時間まで起きておかないといけないし。もう眠くて眠くて、歩くのも辛いわ~っ」

ふらふらと蛇行し、藍は少し後ろを歩いていた与一のほうに向き直ると、腕にしがみついた。

「よいっちゃぁん。眠いよぅ~」

藍の動きに合わせて、新調した藤の簪が、しゃらりと揺れる。

注文通り、飾りは大分小ぶりになったが、店の主人が心配したほど、美しさは損なわれていない。
つけているのが、藍だからかもしれないが。

「しっかり歩いてください。藍さんを抱えて歩くのは、御免被りますよ」

「うもーっ! 負ぶってくれたっていいじゃない~」

「嫌ですよ。重たい」

「この華奢な身体が、重たいわけないでしょう~」

ちょろちょろと与一の周りを回りながら、藍が文句を言う。