「よいっちゃん。依頼の内容は、ちゃんと覚えておかなきゃ駄目じゃない」

藍が、半分かじった稲荷寿司を突きつけながら言った。

「的は覚えてましたよ。下駄屋の辰巳」

言いながら、素早く突きつけられた稲荷にかぶりつく。

「ああっ! 酷い~っ」

藍が叫び、指先に僅かに残った油揚げを舐めながら、与一を睨む。

「いっぱいご飯食べないと、おっきくなれないとか言うくせに、あたしのご飯も食べちゃうなんて、酷いじゃない~」

「藍さんが、あんまり美味そうに食べるからです」

唇についた米粒を指で拭いながら言う与一に、藍は、ふふふ、と笑って、最後の稲荷をつまみ取った。

「よいっちゃんの生気のほうが、美味しいわよ」

「それはどうも」

軽くあしらい、与一は窓辺の藍の横に並んで、同じように下駄屋を見た。